Our Philosophy
「現状肯定意識と機会損失」
業績が停滞する理由
人が形成する組織には「現状を維持しようとする慣性」が存在します。
その慣性は組織の安定化には必要ですが、時として機会損失を組織にもたらします。
Point1:「組織は作られた途端に陳腐化し始める」
少し前のお話になります。2008年3月31日に放映された「カンブリア宮殿」(テレビ東京)で、日清食品株式会社の安藤宏基社長が組織の“さが”について的を射た発言をしておられました。そのお話の趣旨は、「組織は作られた途端に陳腐化し始める」ということです。組織では、効率化が求められその結果として分業化が進む。分業化が進むと部門、個人の責任の所在が曖昧になる。責任そのものが希釈化してしまうと個人の責任意識が効率化との引き換えに減退していく・・・。
その問題に対応するため、日清食品では「解剖会議」という名称の会議が社長主宰で行われているそうです。その会議では損失金額を個人単位で明確にする。例えば、あるマネジャーの企画した新商品が一億円の損失を出したとすると、種々のデータをもとに議論を重ねる。例えば、商品コンセプト自体は正しかったのか、ネーミングは、パッケージングは適したものだったのか、販促プロモーションは効果的であったのか、競合との味比較での完成度は?と議論は深まっていく。その過程を注視しながら最終的には社長が裁定を下すという。その結果は例えば次のようになる。
1.プロダクトマネジャーは40%の責任で4000万円
2.営業本部長は20%の責任で2000万円
3.宣伝本部長は10%の責任で1000万円
4.○○部長は・・・
同社ではこのように関係責任者一人一人の貢献(損失)金額を明確にしており、その累計金額が個人別に安藤社長の携帯電話の中に記録されているという。なお、その記録について、実際に負債の返済を迫られることはなく、退職するまでにできるだけ早く完済し利益を出すことが期待される。安藤社長は解剖会議とその意図について次のように語っている。「組織というのは誰がどうしたって責任が分からなくなる傾向があるのですが、それをはっきりしましょうということなんですよ。」
Point2:「タッグ・オブ・ワー(綱引き)」
10年ほど前のテレビ番組で、シニア女性5名チームとプロ格闘家5名チームとの綱引きの試合が放映されていました。シニア女性チームは平均年齢55歳、平均体重58kg、片やプロ格闘家チームは平均年齢35歳、平均体重105kg。体力的には雲泥の差がありました。さて、試合の結果はどうだったでしょうか?10数秒はかかったでしょうか。
激闘の末、シニア女性チームの勝利に終わりました。そして、その試合が終わった時の情景が印象的でした。プロ格闘家の全員の呼吸は大きく乱れ、全員が肩で粗い呼吸をしていました。一方シニアチームの面々と言えば、全員が“涼しい顔”で勝利を喜びあっていました。
なぜ、これほどまでの差がついたのでしょうか?試合を振り返るとそれがわかります。シニア女性チームは床から腰の位置が一定した距離にあり、綱を引くタイミングに一糸の乱れもありませんでした。一方、プロ格闘家は腰の位置がバラバラ、“腰で綱を引く”といのではなく“腕っぷしで綱を引く”イメージ、さらには引くタイミングは各自バラバラ・・・。
Point3:「社会的手抜き」・・・リングルマン理論
ドイツの組織行動学者のリングルマンは組織の生産性の変化を「つなひき」をもとに説明をしました。先ず、1対1で綱引きをした場合に発揮できる力を100とする。今度は複数人数対複数人数で綱引きをするとどうなるのか?2対2になると1人当たり発揮できる力は93に減少し、3対3では85%に、さらには8対8となると49と、1人当たり発揮できる力は半分以下になるという。
つまり、組織のように多人数が集まり共同して一つの仕事を成し遂げる場合、個人が本来持っている力を十二分に発揮できる環境ではなくなることを証明しました。
フリーライダー(自分は貢献しないで“ただ乗り”する人)が生まれる → 努力する人は今以上に努力が必要とされる → 今以上に努力しても思うように結果が出ない → 妥協・諦観の気持ちが生まれる → 組織力の更なる減退、との負のサイクルが生まれる。
このような連鎖は容易に想定できることですね。
Conclusion1:「業績停滞の理由は陳腐化対応の遅れにあり」
さて、組織とは放っておけばその力は減退する宿命にあるとことには同意いただけるかと思います。業績を上げる組織と上げられない組織との差はまさに、陳腐化対応への意識とこだわりにあると言っても過言ではありません。
さらに、また、その“陳腐化対応”とは、1)個々人(具体的には管理者)の責任の具体化、および、2)個々人の力の最適連動化にある、とは感覚的にご理解いただけたかと思います。
その具体的展開を説明をさせて頂くためにも、「業績が停滞する理由」を今一歩掘り下げておきたいと思います。Point4以降では、組織の陳腐化を促進する要因を「現状肯定意識」という視点から切り込んでいきたいと思います。
Point4:「組織の陳腐化は現状肯定意識により加速する
組織変革は「変えようとする力」と「現状を維持しようとする力」の攻防と言えます。「変えようとする力」>「現状を維持しようとする力」であれば、変革は進み企業の業績は改善しますが、逆に「現状を維持しようとする力」>「変えようとする力」であれば変革は進まず企業の業績は停滞します。
では、その「現状を維持しようとする力」は何により作られるのでしょうか?私の独断と偏見で語ることをお許しいただけるとすれば、それは組織の中の人の「思考」(頭の中で日々繰り返し唱えられる”呪文“)です。それらは新しい思考・行動を回避するための”口実となる思考“です。ざっとリストアップしてみましょう。
1.過信(過去の成功体験。自分のやることはいつも正しい)
2.慢心(今のままでも大きな問題はないし、今まで何とかなってきているし)
3.逃避(どうせ無理だろう)
4.惰性(いつものことをいつも通りにコツコツと)
5焦燥(いつも時間に追われ大局が見えない)
6.誤解(一度貼ったレッテルは絶対に貼り替えない)
7.他責思考(自分・自部門は良いが他人・他部門が悪い)
8.職責外(自分ができる範囲はここまで)
9.諦観(あの上司がいる限り・・・・)
10.評論家(そんなことしても成果は出ないよ)
11.無関心(やってもやらなくても同じ・・・)
12.縮小均衡(けちけちオンリー。夢への投資なし)
13.不信(やつらは信頼できない)
14.自制(自分なんかが出る幕じゃない)
15.理論優先(理屈ばっかりで行動せず)
16.迎合(長いものには巻かれよう)
17.視野狭窄(見たいものしか見ない)
18.四角四面(カチコチあたま)
19.失敗回避(安全・確実が第一)
20.縄張り意識(自分・自部署の利益を最優先)
21.八方美人(悪く思われたくない)
22.知ったかぶり(解決策はわかっているんだよ!)
23.丸投げ(これは部下がやる仕事。自分がやることではない)
24.先送り(なぜ、そんなに急ぐの?今やらなくても問題ないでしょう)
25.減点主義(失敗した奴は減点!)
Point3でリングルマン理論(組織のように多人数が集まり共同して一つの仕事を成し遂げる場合、個人が持っている力を十二分に発揮できる環境ではなくなることを証明)をご紹介しました。個人の力が十二分に発揮できなくなった職場で日々積み重なる“口実となる思考”、これこそが「現状肯定意識」を作り出す最大要因です。
では、実際に現状肯定意識が経営的にどれほどのインパクトを持つのかを実例を通して検証してみましょう。
Point5:「現状肯定意識(小売部門の事例)」
以下のグラフはある全国規模の惣菜チェーンの実績(守秘義務の関係から数値は変更してありますが、問題の本質についての相違はありません)です。
縦軸は売上、横軸は商品ロス率、ドットは店舗を表しています。
レジリエンス「A店とB店は売上が同じなのに、なぜロス率が1%以上も違うのでしょうか?」
某営業部長「ロス率は売上が増えればすぐ改善しますよ。やはり、大型店舗の方が有利ということでしょうか。一方で、市場競争環境を見れば、周辺に大手スーパーのあるB店の方が厳しいということもありますね。店長の力量にも差がありA店長はキャリアが長く優秀なんですよ。B店はアルバイトが多くて・・・。」
レジリエンス「A店とB店のロス率差の1%は確かに、市場競争環境、店長、アルバイトの力量に影響を受けますよね。その中で店長、アルバイトの力量改善によりどれほどロス率は改善するものでしょうか?また、それ以外に自助努力による改善要因はあるのでしょうか?」
某営業部長「店長、アルバイトの力量アップでロス率はある程度は改善すると思いますが・・・・。でもやはり市場環境の変化による売上減が一番の要因だと思いますよ。」
カギは、某営業部長は店長、アルバイトの力量アップでどれほどのロス率が改善するのか、またその他の自助努力的改善によりどれほどのロス率が改善するのか、数値で検証する前に、「市況環境の変化による売上減が一番の原因」と思い込んでいること。
Point6:「現状肯定意識(製造部門の事例)
以下のグラフはあるメーカーの製造部門のライン生産性に関する事例です。
某課長「過去6ヶ月でライン生産性は4.2%改善し、先月は92.5%に到達しました。自分の責任領域では改善は進めています。」
レジリエンス「そうですね。しっかりと改善が進んでいるようですね。一方で今一歩改善を進められる可能性はありますか?たとえば、某課長が仰るところの生産性の分母は機械の稼働時間ですが、これを機械が停止している時間も含めた操業時間を分母としたら・・・?ご参考までに先月のデータをもとに計算してみました。ご覧いただけますか?操業時間を分母にすると生産性は61.2%になります。」
某課長「・・・。確かに操業時間を分母にすればそうですが、段取り替えとか手待ちの部分は自部門の責任の及ばないところですし、自分がとやかく言うところではないと思いますが・・・。」
レジリエンス「確かに大部分はそうかもしれませんが、例えばマシンキャパシティー、つまり、機械の稼働スピードを上げるとか、手待ち時間を少しでも少なくするための予防的な行動とか、改善可能性は全くないですか?」
某課長「全くないとは言えませんが、その前に保守部門が段取り替えをスピードアップした方がいいんじゃないですか?」
カギは機械の稼働スピードを上げる、また、手待ち時間を減らすための予防的行動によりどれくらいの改善の機会が生まれるのかを数値で検証する前に、「保守部門が段取り変えをスピードアップすべき」と思い込んでいること。
Conclusion2:「業績停滞の理由は現状肯定意識にあり」
現状肯定意識は個人の“思考”により作られますが、個人の“思考”は組織風土に多大な影響を受けます。つまり、上記某営業部長、某製造課長個々人が改善に消極的ということではなく、組織自体が改善に消極的であると考えるべきだと思います。
先に、「業績を上げる組織と上げられない組織との差はまさに、陳腐化対応への意識とこだわりにある」と申しましたが、陳腐化対応の意識を作り上げる最大の障害が組織に根付く現状肯定意識であると考えられるのです。では、その現状肯定意識と部門リーダーとはどのような関係にあるのでしょうか・・・・・?そうです!醸成するのも、助長するのも、はたまた、改善するのも部門の長である管理者がカギを握るということです。
「現状肯定意識を変革意識に昇華する」
部下を動かす原則1~9
1 想いと現実とのギャップを知る
根本原因の追究なしに、変革の処方箋は生まれない
企業の病症は現場に、個人の病症は日々の行動ににじみ出ている。組織に変革を起こそうと考えている経営者であれば、「こうあらねばならないと考えていること」(自らの想い)と、「実際に日々現場で行われていること」(現実)とのギャップを知る必要がある。
そして、組織の人々が、なぜあるべき姿を求めず現状に妥協しているのか、その原因をしっかりと把握しておかなければならない。その根本原因の追究なしに、変革の処方箋は生まれない。
固定観念のワナ
現状に妥協する姿勢を作り上げるのは、組織に属する一人ひとりの長年の思考行動様式であり、いわゆる「固定観念」(現実を肯定し変化を拒む力)である。いくら事業戦略、ITインフラ、人事制度を抜本的に見直したとしても、それを動かす人の意識、行動が“惰性”に流されていれば、その効果は期待できない。リーダーとしていの一番に着手すべきは組織競争力のOS(オペレーティングシステム)たる人の意識と行動の変化である。
ではどのようにして組織に存在する固定観念を発見したらよいか?そのためには経営者が以下の質問の答えとして事実を客観的に把握すればよい
1 顧客が当社に期待している価値と、当社が顧客に実際に提供している価値のギャップは何か?どうしてそのギャップが起こるのか?
2 当社の中期経営計画と、その実行状況のギャップは何か?どうしてそのギャップが起こるのか?
すると、上記キャップの原因になっているのは、Point4で挙げたような現状肯定心理であり、それが個別具体的な事象につながっていることに気づくはずだ。(⇒Point4参照)
2 変革実行の覚悟を決める
変革の成功は経営者しだい
変革を起こすことを決定する経営者は、自らの変革の実行を決断し、その成功に向けて不退転の決意を固めなければならない。コンサルタントを活用するにしても、最終的には自分が全責任をとる覚悟がなければ、変革は途中で消滅する。
筆者の過去の経験から申し上げれば、変革の成功要因の80%は経営者の決意・覚悟のほどに左右される。
自らの言葉で自らの退路を断つ
リーダーであればタイミングを誤ることなく、“自らの言葉で自らの退路を断つ”作業を行う必要がある。それにより初めて、リーダーの“想い”に本音で呼応しようとする人間が組織の中に生まれはじめるのだ。
3 退路を断つ
覚悟と決意を持たせる
経営者は“動かす対象者”に自分と同等の決意・覚悟のほどを持たせることが必要だ。しかしそれは一朝一夕に達成できることではない。
いや、そればかりか、その達成こそが変革プロジェクトの目標であるといっても過言ではない。ただし、プロジェクトを開始する前にその目標に向かっての極めて重要な一歩を踏み出しておかなければならない。
経営者は“動かす対象者”をその気にさせるために、正しい仕込み作業を行うべきだ。その正しい仕込み作業とは、“動かす対象者”の心理的退路を断つことである。
具体的には、プロジェクト開始前に、経営者は“動かす対象者”に対して、以下の二つの働きかけを行うことである。
1 論理的な働きかけ:
正しい目標・期限を定め、正しい人をプロジェクトリーダーにしたうえで、直に伝達する。プロジェクトごとにリーダーは一人に限定する。複数はそぐわない。
2 心理的な働きかけ:
プロジェクトリーダーと社長との関係が一対一の“契約関係”と感じられるように環境設定する。
4 問題を自覚させる
現状に妥協してしまう最大の原因
“あるべき姿”が分かりながらも現状に妥協してしまう最大の原因が、固定観念にあることはすでに述べた。その固定観念を取り払い、前向きに変化する欲求を持ってもらうためには、以下の二点が不可欠である。
1 (動かす対象者)生々しい事実を目の当たりにさせ、問題を自覚させる。
2 この作業は対象者が自ら行う
問題を自覚させる方策
では、プロジェクトリーダーに問題を自覚させるために、経営者、変革スタッフは具体的に何をすべきであろうか?実際には以下のことを、プロジェクト開始後4週間までに実行したい。
1 論理的な働きかけ:
改善ロジックを数値で示させる。
2 心理的な働きかけ:
今までにないスピード(最短2週間、最長4週間)で成果を要求し、既存の行動様式を変えさせる
5 必要な行動を計画させる
逆算的計画思考の重要性
プロジェクトリーダーが“あるべき姿”(目標)と現状のギャップ(問題)を自覚した後になすべきことは、“あるべき姿”に向けて新しい行動を取りはじめることである。特に重要なのは、必要な行動スピードを本人が自ら感じ取ることだ。そうしなければ、定められた期限までに“あるべき姿”に到達することはできない。
計画の精緻化を継続させる
経営者、変革スタッフは、プロジェクトリーダーたちに対して目標達成に向けて“何を”“どれほど”“いつまでに”“だれ”が行うのかを明確にさせ、「打ち手による効果の合計>マイルストーン目標」になるまで計画の精緻化を継続させることが必要である。それによってプロジェクトリーダーは、目標達成に必要な行動スピードを“ひしひし”と感じれるようになるのである。
具体的には、経営者、変革スタッフはプロジェクト6週目までに、以下のことをプロジェクトリーダーに実行させたい。
1 論理的な働きかけ:
①六カ月目標をマイルストーン目標に分解させる。
②マイルストーン目標を達成するための打ち手を立てさせる。
③打ち手の実行策(アクションプラン)を日々ベースで計画させる。
④打ち手の効果予測値を数値で表現させ、打ち手の精度、および「打ち手効果の合計>マイルストーン目標」であるかどうかの妥当性を冷徹に詰める。
2 心理的な働きかけ:
①打ち手の効果予測値のロジックを冷徹に詰め、脆弱なロジックは破棄させる。そのことにより、変革プロジェクトに求められる数値の精度を知らしめる。
②打ち手の効果予測値合計値と六カ月目標(財務数値)とのギャップを意識させ、目標との距離感を縮めることに注意を向けさせる。
6 正しいスピードで行動させる
このままのスピードで目標は達成可能か
プロジェクト6週目までにプロジェクトリーダーに新しい行動を計画してもらうことはお伝えした。10週目までには、その行動計画と行動実績がどの程度乖離しているか、また、その行動実績がどの程度目標に向かって効果を出しはじめているか、このままの行動スピードで目標達成が可能か、を考えてはじめてもらう必要がある。
逆算的計画思考の質を定める
この段階で経営者、変革スタッフはプロジェクトリーダーに対し、“逆算的計画思考”を植え付け、その質を厳格に評価する必要がある。特に経営者の仕事は、この逆算的計画思考の質を定め、その質的要件に満たないものを執拗に、かつ緊急性をもって改善させることであることを認識しておきたい。
経営者、変革スタッフがプロジェクトリーダーに実施させる具体的作業は、以下のとおりである
1 論理的な働きかけ:
①「打ち手の効果予想値→打ち手の実行→効果検証→六カ月目標達成への影響度測定」のプロセスを回させる。
②打ち手の効果予測値の合計と、六カ月目標とのギャップを埋めるための新たな打ち手を考えさせる。
2 心理的な働きかけ:
①「打ち手の効果予想合計値>六カ月目標」となるように徹底的に考えさせる。充分な打ち手(量・質)をスピーディーに構想するメンタリティーに移行させる。
②打ち手の効果測定結果をもとづき、六カ月目標達成確度の数値的根拠を言明させる。それにより、必要な新たな打ち手、既存の打ち手の精度向上のための計画、実行スピードを考えさせる。特に、定性的、抽象的な内容の打ち手は、数字的根拠が見極められるまで徹底して考えさせる。
7 正しい行動スピードをまわりに伝播させる
緊急性をまわりに伝達できるか否か
この時期(プロジェクト10週目まで)には大変重要なポイントが、もう一つある。それは、プロジェクトリーダーだけが緊急性を感じても、目標達成は不可能だということだ。目標達成のためには、プロジェクトリーダーが自分の感じている緊急性をまわりの人間に伝播し、その人々の意識・行動を変えなければならない。
プロジェクトリーダーが、自分の感じている緊急性を周りに伝達できるか否かは、変革活動の成否を決める重要な要素の一つである。しかしながら、経営者はプロジェクトリーダー個人の意識・行動変化までは関与できても、プロジェクトリーダーがまわりの人間を動かすことにまでは関与できない。
変革スタッフの重要性
では経営者は何をすべきなのか?その際に重要な役目を担うのが変革スタッフである。経営者は変革スタッフを通して、プロジェクトリーダーとその部下との緊急意識のズレを、タイミングを逸せずに把握することができる。さらに変革スタッフを通して、そのズレをどのように解決していくのかをプロジェクトリーダーに考えさせ、行動をとらせることができる。
経営者が、変革スタッフを通してプロジェクトリーダーに実施させる具体的作業は、以下のとおりである。
1 論理的な働きかけ:
「打ち手の効果予想値→打ち手の実行→効果検証→六カ月目標達成への影響度測定」のプロセスのなかで意識・行動変化の不足している部下を明らかにさせ、その原因・対策を考えさせる。
2 心理的な働きかけ:
上記原因を考え、対策を計画・実行する際の注意点は、意識・行動変化の不足している部下に、頭ごなしに命令しても効果は出ないということだ。部下が感じている心理的懸念を以下の三つに分類して、まずその懸念の本質を把握させてから対策を考えさせることが重要である。
①もっともな懸念:部下の心理的バリアーが客観的に見ても正論である場合は、その懸念を事実に基づいて解消するプロセスが必要である。この種の懸念は必ず数値をもとに議論を進め、必要な回数の打ち合わせを通して解消すべきである。
②不信・不満:この種の懸念については、一度すべてを聞く耳を持つ必要がある。その後、部下が考えている優先順位とプロジェクトリーダーの考える優先順位の違いを論理的に話し合い、そのギャップを埋める努力をする。そのギャップを埋めるためには、それぞれの優先順位に基づいて行動を維持した場合のメリット、デメリットともに検討しあうようにしなければならない。
③思い込みによる事実の誤解:部下はひょっとすると、事実を誤解して抵抗しているかもしれない。その際には誤解している事実を客観的に共有し、誤解を解く。
8 行動の効果を考えさせる
プロジェクトが10週目を越えたあたりから、プロジェクトリーダーには新しい行動を継続させながら、財務目標達成に向けて、現状の行動スピードが正しいかどうかを継続的に考えさせ、習慣づけさせることが必要となる。
さらにプロジェクト14週目までには、関係者に変革の成功を実感としてつかませるため、プロジェクトリーダーに最初の目に見える財務的効果を創出させることが必要である
経営者が、変革スタッフを通してプロジェクトリーダーに実施させる具体的作業は、以下のとおりである。
1 論理的な働きかけ:
①「打ち手の効果予想値→打ち手の実行→効果検証→六カ月目標達成への影響度測定」のプロセスを継続的に回させる。
②検証された打ち手の効果の合計値と六カ月目標とのギャップを定量的に数値で把握し、それを埋めるアクションを考えさせる。
2 心理的な働きかけ:
①14週目までには、目に見える、最初で、かつ意味のある大きさの財務的効果を創出させる。それにより、プロジェクト関係者が当初感じていた“目標との距離感”を飛躍的に縮めさせる。
9 成果に密着させる
プロジェクトも14週目を越えるころには、プロジェクトリーダー全員が目標達成を射程圏内に入れ、そのために必要な自らの行動スピード、および、部下の行動スピードを自律的にコントロールしている状態が継続、習慣化していることが望ましい。
そして6か月及び年度末の財務目標の達成が実現するまで、その習慣を頓挫させないことが重要だ。
そのために、経営者、変革スタッフが、プロジェクトリーダーに実施させる具体的作業は、以下のとおりである。
1 論理的な働きかけ:
①六カ月目標、②実績、③差異A(①-②)、④打ち手の効果予測、⑤差異B(③-④)をもとに、まず、差異B(六カ月目標と実績の差異を打ち手による効果でどれだけ埋められるか)の精度を正確に語らせる。
次に差異Bを減らすために打ち手を毎週考えさせる。差異Bの精度および差異Bをゼロにするアクションプラン、その実行状況が毎週経営者、プロジェクトリーダー間で共有されている状態にする。
2 心理的な働きかけ:
差異Bを減らし、六カ月後の財務目標を達成するために、プロジェクトリーダーたちが“とことんこだわりはじめる”状態をつくること。そのためには、差異Bを“ゼロ”にすることに経営者自らが絶えずこだわりつづけること。また、差異Bが発生した場合は、可及的速やかに差異Bのゼロ化のためのアクションプランを考えさせること。
差異Bのゼロ化は、“石にかじりついても継続する”との経営者の執着心の度合いに大きく影響を受ける。この経営者のこだわりが、プロジェクトリーダーを通して組織に伝播するのである。
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